記憶の共有は縁の結び目

ライター角田奈穂子の「雑な生活」ほぼ日記

野球愛が感じられない神宮球場(神宮外苑)の再開発

 

1000本もの樹木伐採が計画されている神宮外苑の再開発は、自然環境への悪影響が注目を集めていますが、じつは、神宮球場をホームにするヤクルトスワローズのファンはもちろん、野球ファンの全員に関心を持ってもらいたい問題でした。

今、4月14日に開催された「『野球の聖地』伝統ある緑の神宮球場を守ろう!シンポジウム」に出席し、開発計画の不透明さに驚愕して帰ってきたところです。本業モードではなく、単なるオールドスワローズファンとして参加してきたので、誤認があるかもしれませんが、何が問題なのか、まずはシンポジウムで解説された内容をざっくりと紹介します。(誤認や勘違いは気づき次第、修正していきます)

 

1)新球場より、高層ビル建築が先にありきの再開発

神宮外苑の再開発計画については、公式サイトがあり、東京都都市整備局のなかにも説明用のウェブページが作られています。

◆公式サイト

www.jingugaienmachidukuri.jp

 

◆東京都都市整備局

www.toshiseibi.metro.tokyo.lg.jp

 

現時点で、神宮球場について触れているのは、この1ページのみです。しかも、ラグビー場、テニス場、室内球技場とまるっとまとめてです。

www.jingugaienmachidukuri.jp

シンポジウムで神宮球場がどう変わるかを主に説明してくださったのは、「神宮球場に想いを寄せる市民の会」共同代表の竹田保久さんです。この記事は、竹田さんの解説を元に書いています。まず最初に竹田さんが話したのが、「(神宮球場の再開発に)野球愛が感じられない」ということでした。

どういう内容をお話しくださったのか、以下に書いていきます。公式サイトに新しい神宮球場のイメージイラストが紹介されていますが、そのまま持ってくるわけにもいかないので、ざっくり真似してみます。

 

 

不動産のイメージイラストは、図面を正確に起こしているわけではないとはいえ、現段階で公開されている状態で見ても、「ないわー」と突っこみたくなる配置です。土地が余ったところに球場置きましたからね、という感じ。

シンポジウムでまず問題視されたのは、次の4点です。

  • バックスクリーンがない?
  • 照明灯がない?
  • ファウルゾーンがない?
  • 外野スタンドがない?

さすがに完成時には、野球場としての機能は備えると思いますが、野球ファーストではない印象はいなめません。小池都知事都民ファーストの会の特別顧問なんですけど、どこの都民のことなんだろ、と思います。

再開発でもっとも注目したいのは、高層ビルに囲まれた球場になるという点です。公式サイトのイラストでは、周囲の高層ビルが薄く描かれているので気づきにくいのですが、球場の空がさえぎられ、ビルがほぼどの視界からも目に入る配置になっています。それもかなり近いです。

1塁側の「事務所棟」は高さ約190mとのこと。建築済みの似たビルを探してみると、「アクティ汐留」がヒットします。

 

www.blue-style.com

3塁側の「複合棟A」は、高さ約185m。「虎ノ門ヒルズ ビジネスタワー」「シティタワー武蔵小杉」が同じくらいの高さです。

 

www.blue-style.com

ホテルが約60mの高さとのこと。(イラストの位置はずれているかも)。さらには、レフト方向に「文化交流施設・中央広場」というものが作られるらしく、その高さが約80m。25階建ての高層マンションくらいの高さです。

球場全体がビルに囲まれるという設計なのですね。竹田さんは、それによって何が予測できるかも説明されました。

  1. 日陰になる時間が今より長くなる……環境影響評価書によると、青山高校付近(が日陰になる時間は、夏至日において約2時間30分、春・秋分で約1時間50分増加します。イチョウ並木方向では、春・秋分で約30分、冬至日では約3時間30分増加とのこと。
  2. 強いビル風の影響……高さ100m以上の武蔵小杉のタワマン街では、最大瞬間風速15〜20mの風が吹くそうです。体感でいうと、風に向かって歩けなくなり、転倒する人も出るくらいの「強い風」です。
  3. 騒音による周辺への影響……球場が移転することにより、都営住宅との距離が近くなります。以前は160m離れていましたが、80mの距離に。騒音レベルで言うと、58dbから62dbになるのでは、という予想。都営住宅への影響だけでなく、複合棟にホテルも入居する予定らしいので、宿泊客から応援に苦情が来る可能性も否定できません。

この3点から予測できるのは、今までのようにデイゲームを太陽の下で楽しむ時間が減るということ。日陰になる時間帯が増えれば、選手の写真撮影を楽しみにしている人にも影響は出ます。春や秋は気温も下がるので、冷え冷え感が増すでしょう。

強風については、球場の形状がすり鉢状なだけに、どのように風が回るのかわかりません。ボールの行方に影響するのではないか、というプレーへの影響に加え、スワローズファンは、応燕傘が振れなくなるかもしれません。開いたとたんに飛ばされる傘が続出、なんていうシーンがありそうです。岡田さんが草葉の陰で泣いてる姿が目に浮かんでしまいます。

騒音も心配です。今でさえ、都心の球場ということもあり、応援団は騒音に気をつかって応援してきました。おそらく、これだけの建物が周囲を囲むと、花火も打ち上げられなくなるのではないかと思います。

シンポジウムの会場でも、参加者の方から、こんな新球場では、将来、スワローズは神宮から離れて、他の場所に移転してしまうのではないか、という発言がありました。

2)誰のための「スポーツの拠点」にする開発なのか

公式サイトには、「神宮外苑が紡いできたテーマ『みどり』『スポーツ』『歴史・文化』がオープンに、混ざり合い、一体化する」と記載されています。これにも疑問が呈されました。

軟式野球場のかわりにできるのは、高級会員制テニスクラブ……現在、聖徳記念絵画館前にある軟式野球場の部分が再開発され、オープンスペースを中央に両側に屋内・屋外のテニスコートが建設されます。会員制らしいので、一般の人が気軽に利用できる施設にはならなそうです。

軟式野球場がなくなることで、アマチュア野球への影響はどうなるのでしょうか。また、今、広々とした絵画前のスペースが、がっつり建物に囲まれるわけです。竹田さんは、「多くのファンが楽しみにしているスワローズ選手の練習風景も見られなくなるのではないか」と話していました。

3)イチョウ並木への悪影響は?

ただでさえ湾岸地域の高層ビル群の乱立で海風がさえぎられ、ヒートアイランド現象が加速している昨今、都内の樹木が減ることは好ましいことではありません。神宮外苑の貴重な樹木が伐採(都は移植と言い換えてはいますが)されることが、この再開発で大きな問題になっています。

都側は、イチョウ並木は守られると説明しているものの、今日の話では、そうでもないのでは?という疑問がわきます。新しい神宮球場が建設されるのは、イチョウ並木のすぐそば。わずか6m(8mだったかも、記憶がうろ覚えです。でも10m以下)しか離れていないところに建つそうです。

大木の根は地下で広く張っているので、建設時から影響を受けるでしょうし、建設後も、球場に圧迫されるのではないか、という予測がつきます。

4)広域避難所としての安全は確保できるのか

高層ビルが建つことにより、昼間人口の増加は必然です。しかし、これだけ建物が林立し、何もない空間が激減した場所で、災害時に大勢の人達を守ることができるのでしょうか。現在、絵画館前の広場は、軟式野球場になっていることで3.0ha以上、確保されています。ところが、開発後は、屋内テニスコート棟が建つこともあり、中央広場として確保されるのは、約1.5はhaになります。つまり半減するそうです。

今日のシンポジウムを聞いていて、私がもう一つ気になったのは、交通の問題です。私は湾岸地域に事務所があるので、この20年ほどの変化を目の当たりにしているのですが、高層マンションが1棟でも増えると、駅の混雑が目に見えてひどくなります。豊洲駅は、ホームから転落事故が起こるのではないかというほど危険な場所になり、ホームが増設されました。

外苑前の再開発で人が集まるようになれば、駅の混雑も増すでしょう。外苑前駅、表参道、青山一丁目駅信濃町駅国立競技場駅と、人々を分散できる交通網はありますが、歩道がそれほど広くない場所もあることを考えると、都心に残る貴重な広々とした空間を失うことの負の面のほうが気になります。

 

ここまでが神宮球場の移転新築に関する問題点です。その他、いくつか気になったことも付記しておきます。

  1. 神宮球場を建設するとき、東京六大学がかなりの資金を出したとのこと。大学野球の聖地でもありますが、大学側は今回の開発について、どう考えているのでしょうかね。
  2. 歴史を紐解くと、神宮球場はもともと国有地で、太平洋戦争の終戦後、GHQに接収されたそうです。その後、返還されるときに、明治神宮に格安で譲渡されたとのことでした。外苑は国、明治神宮……と地権者が複数いるそうです。
  3. 神宮球場は2016年に耐震工事を完了させています。耐震工事は多額の費用がかかるそうで、この時点では長く使い続ける予定だったのだろうとのこと。にもかかわらず、移転の話が出たのはいつなのでしょう。甲子園球場が100周年記念に動いているのに対し、神宮球場は100周年のときに壊されるという、スワローズファンとしては情けない気持ちで聞きました。狭かったり、古かったりと、選手たちに負担がかかっていることはよく知っていますが、なんとかそこもクリアしての継続はできないのだろうか、と思ってしまいます。

この機会に、神宮球場の球場史も目を通しておこうと思いました。

www.jingu-stadium.com

 

シンポジウムでは、主催者のロッシェル・カップさんが、シカゴにある友人の設計事務所に依頼し、外苑再開発のデータを元に作成した3D映像も公開されました。公式サイトのイラストではわからない、高層ビルの高さと影響が一目でわかります。その映像が流されたとき、会場からは「おおおー」という驚きの声が上がったくらい、衝撃を受けると思います。

近々、この映像は、説明のナレーションを加え、ブラッシュアップした形で公開されるとのこと。ぜひ見てもらいたいと思います。

神宮球場への影響を説明してくださった竹田さんたちの「神宮球場に想いを寄せる市民の会」も、活動が始まって日が浅く、賛同してくれる方を待っているそうです。

最後にロッシェルさんがシンポジウムの閉会メッセージとして語った言葉を書いておきます。記憶から書いているので、大意ですが。

 

今は坂本龍一さんのメッセージもあって、外苑開発に注目が集まっていますが、開発側は、関心が薄れ、人々が忘れ去ることを待っています。忘れないこと、反対し続けることが大切です。そして、一人ひとりが発信して欲しい。それが、「変える力」になります。

 

twitter.com

 

私自身、これまでぼんやりと追っていた外苑再開発でしたが、これからは、公開されているデータ等をがっつり読み込んで、もっと勉強したいと思います。ホントに「レガシー、レガシー」言うてた人たちがやってる再開発って、結局、レガシーぶっ壊しじゃん、と憤慨してます。スワローズ観戦のあと、真っ暗な国立競技場を通ってるのですが、毎回、「ここをぶっ壊して、ラグビー場なり、球場を作ればよかったじゃん」と思っているワタクシなのでした。

 

追記:今後、神宮再開発の件については、noteのまとめマガジンで情報発信していきます。

 

note.com

 

問題が多方面に渡っているため、どれほどの問題なのか、俯瞰で見ることも必要です。SNSで流れてしまう情報をまとめるダムがあったほうが、わかりやすいかと思います。次回からはこちらで更新していきます。