「週刊朝日」が5月末の発行で休刊するというニュースが昨日、流れてきた。版元の朝日新聞出版には、朝日新聞社の出版部門だった頃からお世話になっているので、それなりに内情は見聞きしていたし、予測もしていたけれど、現実になると、やはり寂しさと哀しさで落ち込んでしまった。いくらかでも盛り返せれば、という気持ちで原稿を書いていたこともあるし。
振り返れば、私が関わったことのある雑誌の多くが、すでに休刊している。つきあうようになって数年で休刊した雑誌は諦めもつきやすいが、創刊から長年、関わった雑誌が休刊したときは、1年くらい喪失感が続いた。スケジュールの変化にも慣れなかった。定期的に関わってきた仕事がなくなるというのは、外部スタッフにとっても身を切られるようにつらいのだ。収入減をどう補うかの問題も、頭が痛い。
電車に乗ると、ほぼ全員がスマホを見ていることもあるし、「これじゃあ、紙は売れないよな」とは思う。読者からすれば、Yahoo!ニュースなどのニュースサイトで速報や世の中の動きはチェックできるし、紙媒体がなくなっても困らないと思っている人は多いだろう。でも、紙媒体が衰退すると、ニュースサイトの情報も痩せ細っていくことを、どれだけの人が気づいているのだろうか。
Yahoo!ニュースやLINEニュースが配信する情報は、独自で制作した記事もあるけれど、多くがオールドメディアの出版社や新聞社の記事を転載したものだ。印刷物として発行はせず、Webメディアに移行した媒体もあるが、その場合でも、制作には、紙媒体で取材や編集の経験を積んできた人が多く関わっている。受け取る形が紙でもスマホでも、世に出る情報を支えているのは、紙媒体が長年、培ってきた取材のノウハウや原稿執筆のルール、緻密な編集作業の積み重ねだ。
そして今、情報加工の主力として働いているのは、40~50代。それより以下の世代で紙媒体で経験を積んでいる人は、過去に比べてずっと少ない。30代以下になると、メディアの仕事に初めてたずさわる場所が、Webサイトという人のほうが多いだろう。
2010年代に入り、雑誌の休刊が増えたことで、紙媒体の出身者がWebメディアに転職する一つのピークがあった。ちなみに、その前のピークは、2000年代初めだ。Webサイトで初めて情報加工に関わった人のなかには、紙媒体の出身者にノウハウを教えられた人もいると思う。けれど、Webメディアと紙媒体では、制作の丁寧さ、緻密さがやはり違う。Webメディアは、スピードが勝負なだけに、紙媒体ほど制作に時間はかけられない。だから、時間通りに数多くの情報を発信するために、Twitterのコメントを並べるような記事が多くなってしまう。
また、広告で成り立つWebメディアと、広告収入に頼りながらも「読者による購入」というもう一つの収入源がある紙媒体では、情報の作り方も変わってくる。紙媒体であれば、読者層が絞り込めるので、その読者に合った情報が発信できる。
一方、Webメディアは、閲覧のデータがある程度、取れるとはいえ、紙媒体ほど読者層は限定できない。そうなると、炎上を避けるため、誰にでも好感を持って受け入れられるテーマや記事が多くなる。実際、私が、とあるWebメディアで仕事をしたときには、「どこからも突っこまれない内容にして欲しい」というリクエストを受けた。つまり、当たり障りのない内容に、ということだ。
紙媒体の休刊が続いたせいもあるのだろう。最近は、Yahoo!ニュースに流される記事の玉石混淆ぶりが増しているのではないだろうか。発信元を見ると、誰が作っているのか、よくわからないWebサイトが増えた。タイトルに吊られて私もつい読んでしまうし、暇つぶしにはなるけれど、有益かと考えると、なんとも言えない記事が増えた気がする。
これから発信される情報は、さらに二極化していく。その日、あるいは1週間から半月程度の間に話題になった世の中の動きを伝えるファストニュースの情報と、教養や実用を身につけたり、エンターテインメント的に楽しんだり、さほど速さを求められない情報が生き残ると思う。前者を担うのはネットメディア、後者は書籍だ。
かつてはスピードが重視される新聞とじっくり伝える書籍の間を雑誌がつないでいた。しかし、雑誌が扱ってきた情報は、ネットとの相性がいい。深く掘り下げる内容にまで展開するのであれば、雑誌に軍配が上がるが、結論だけがわかればいいというレベルであれば、短時間で読み切れるネットの文字量で十分だ。そうした情報の性格と、アフィリエイト目的のWebサイト、Youtubeの動画情報に加え、Twitter、TikTokなどのネットサービスに読者の時間を奪われたことが、雑誌の衰退につながってしまった。
紙媒体が培ってきた情報加工の資産を使って、ネットメディアが食いつないでいく状態はもう少し続くだろう。その間に雑誌はもっと減るだろうし、ニュースサイトが転載する情報の量と質は、さらに痩せ細っていくのだろうなとも思っている。
いずれネットメディアで育った人たちが新しい媒体の形を作り上げていくとは思う。けれど、その制作現場が紙媒体並みの質と内容を構築するまでには、どれくらい時間がかかるのか。紙媒体の衰退による情報の質と量の痩せ細りが一時的なもので、その後、新しい形で盛り返す時代が来ればいいな、とは願っている。