勝つことはなくても負けなければいい、のモットーで低空飛行の人生を送っているワタクシでありますが、贔屓のチームが勝ち続けるのはやっぱりうれしいものです。東京ヤクルトスワローズが去年から今年にかけて驚くような強さを発揮し、とくに6月は盆と正月がいっぺんに来たような快進撃。
2020年まで「選手は悪くないし、投打の歯車が噛み合えば、勝てそうなんだけどなぁ」と思ってはいたものの、「まさかここまで強くなるとは。今までのスワローズで最強なのでは?」と、恐れおののいていた2022年シーズンでした。ファンが味わう天国と地獄の差が大きいのもスワローズの魅力と言えば魅力なのですが。
そして最近、もう一つ「野球って面白いなぁ」と毎日のように見ているのが、かつての名選手がホストを務めるyoutube番組です。
トップクラスのスポーツ選手が何を考えて、どう体を動かしてプレイしているのか、これまではスポーツ専門の記者やジャーナリストによるインタビューを通して知ることがほとんどでした。ところが、youtubeでは本人たちが語っているので、内側からの生の声が聞けるし、投球や打撃の動作を交えて説明もしてくれます。プロのトップ選手が日々、何を考え、工夫と努力を重ねてきたのかを知ることができる。なんていい時代なんでしょう。
そんな名選手のyoutube番組を見ていて凄いと思うのは、行動の裏付けに彼ら自身がたどり着いた理論がしっかりとあること。明確に言語化されて、素人が聞いていてもわかりやすいのです。
プロ野球界となれば、全員が過去にエースだったり、4番バッターだったりと才能のある人たちばかり。それが最高峰の世界でしのぎを削るわけで、並みの努力では生き残れない。しかも、契約は1年単位。今年の好調さが来年も続くとは限らず、長く生き残ってきた選手ほど、日々、知恵を絞り、精進を重ねていて、「体を使う仕事」の難しさが痛烈に伝わってきます。丁々発止の戦いを繰り広げてきた選手たちが、引退したからこそ打ち明けられる裏話を語るのですから、面白くないわけがないのです。
野手が難しい球、苦手な球をどう打ち返すか、投手がいかにバッターの裏をかくか、年齢とともに変わる体の使い方など、勝敗に直結する話も興味深いのですが、それ以上に私が面白いと思ったのが、組織としてのあり方です。
チームスポーツなので、全員が他のポジションのことも知っているのかと思っていたのですが、じつはそうでもなく、分業制が徹底しているのですね。それぞれのポジションで自身の技術と経験を磨き、それを持ち寄って勝利を目指すという、究極の個人事業主集団であると初めて知りました。
出版業界もその部分は似ていて、編集者、ライター、カメラマン、デザイナー、イラストレーター、校閲者、印刷会社、書店と、それぞれのプロが寄り集まっている世界です。他の製造業より個人事業主が多いこともプロ野球界と似ているかもしれません。
編集者とライターは企画から完成までたずさわる仕事ですし、販売のマーケティングに関わることもあるので、一通りの工程は知っています。1人ですべての作業をできないわけではありませんが、やはり餅は餅屋。本や雑誌らしき「形」は作れても、質の違いから見れば、それぞれのプロが関わったかどうかは、一目でわかります。
デジタル技術が発達し、1人でレベルの高いモノが作れるようになってきたのは面白いですし、いい時代だと思いますが、一方で複数のプロが集まり、多彩な視点と技術が終結したモノづくりもやっぱり必要だし、大切です。長い目で見ると、後者のほうが時間の波にもまれても生き残る率は高いのではないか、とも思います。
だからといって、プロ集団が作ったいいモノが売れるか否かの話になると、別のファクターが加わるので難しい。そこも、プロ野球の、究極の力を集結したからといって、勝てるわけではないところと似ている気がします。
私が好きな元スワローズの「6さま」こと宮本慎也さんが引退し、後進を育てる側に回ったことで、「1年でも長くプロ野球界で生活できるように努力し、成長して欲しい」とyoutubeの番組でよく語っています。華やかに見えるプロ野球界ですが、あくまでも仕事であり、生活する手段の一つでしかない。自分の特性や欠点を十分に見極め、慢心せず、貪欲に努力することが欠かせないという意味に私は解釈していますが、「究極のアドバイスってコレだよなぁ」としみじみ思います。
書籍や雑誌の企画で「コレをすれば成功する」「コレさえやれば、○○が手に入る」的な短時間で利益を得るテーマのほうが人目を集めるし、ヒットの可能性もあるのですが、昔からどうもその近辺にはなじめない私がいます。仕事として手がけたことはあるのですが……。
新型コロナの流行で、激流のようなスピード重視だった時間の流れが少し緩くなり、方向性とリズムが変わってきた昨今を考えると、地味だし、成果はなかなか見えないし、当たり前にしか思えないけれど、いつの時代にも通じる普遍的な価値観のほうがやはり強いのではないかなぁ、と思ったりしているのです。
元プロ野球選手がホストのyoutube番組はこちら↓ 私がよく見ているのはセ・リーグ中心。たくさんあるのでお好みでどうぞ。
*宮本さんのyoutube「解体慎書」は技術の話が中心なので、今、野球をやってる子たち向け。
*写真は、56号ホームランを打つ「一つ前の打席」の村上宗隆選手。